『こころ/夏目漱石』

古本屋で、偶然出会った一冊。

高校生の時に教科書で一部分だけ読んで、
それから何年か後にDS文学全集みたいなソフトを買って読みかけて、
けれどやっぱり紙の本でないと疲れてしまって。
そのままになっていた。

この本にこのタイミングでたまたま出逢った。

だから古本屋はおもしろい。

(※以下ネタバレを含みます)

高校生の頃に読んだ教科書では、「先生」の遺書の部分から突然始まった。
現代文の先生が解説してくれたけれど、さっぱりわからなかった。
陰鬱でずるい「先生」が親友の自殺の原因になったのだろうというくらいのことしかわからなかった。

何より、好奇心旺盛でイタズラ大好きな高校生の私には、明治時代の誰がどうなろうと知ったことではなかった。

今読み返してみて。
こんなにも生々しい人間の「こころ」がありありと描かれている作品だったのだと改めて感ぜられた。

当時の執筆環境が伺えるような文字間違い、描写地域の狭さ、移動手段、通信手段。
私にはむしろ新鮮に響いたのだ。

そして、この「先生」は、決して特別卑怯でずるい人間などではなく、
かえって真面目で不器用な「先生」の人間らしい行動が親友の自殺のきっかけになったのかもしれない。

親友の中に含まれる厭世的な観念、「先生」と親友の恋の相手が一緒だったこと、二人の関係、「先生」の過去。
あらゆる要素が彼らを突き動かしていた。

そこには彼らの選択の余地はなかったように思える。

先生がその後、自らの命を絶ってしまうほどにその出来事に囚われ続けたのも、
彼自信の生真面目さから来ているのだろう。

あまりに静かで、濃い世界である。
誰にも邪魔されない、精神だけの世界。

常に他者の影響を何らかの形で受け続ける現代ではなかなかこれほど闇の奥深くに潜り込んだ描写はできまい。

ちょっと近代文学にハマりそうである。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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