『最後のトリック/深水黎一郎』

「読者全員が犯人」

さほどミステリー好きとはいえない私も、この帯を見たとたんに足が止まってしまった。

……気になる。

あらすじは、こうだ。
スランプ中のミステリー作家のもとに、謎の男から手紙が届く。

「読者が犯人」というミステリー最後の不可能トリックアイディアを、二億円で買ってほしいー
その中にはこのようにしたためられ、作家は疑いながらも気になってしまう自分を止められない。

そもそも。
ミステリーの世界では、これまでも作家の努力によって様々な人物が犯人の役を務めてきた。

探偵が犯人、被害者が犯人、死人が犯人、動物が犯人、自然現象が犯人、子供が犯人、その場にいる全員が犯人などなど…

けれども、「読者全員が犯人」というトリックだけは、未だ誰も実現させていない《究極の意外な犯人》だといいます。

この、「読者が犯人」とその他もろもろの意外な犯人の間に横たわる、決定的な違いは何か。

それは、「犯人が作品の中にいるか外にいるか」の違いです。

つまり、読者としての私たちは、小説の中の人物と共有する世界が違うのです。

空間という意味でも、時間という意味でも。
現実か虚構かという意味でも。

この本を店頭で見かけた時、私の心に疑念と悪戯心が生まれた。

そこで、ちょいちょいと拾い読みして、そのトリックだけを見てやろうと思ったのだ。

しかし、どうしてもトリックがつかめない。

諦めた私は他の本を物色したのだが、結局気になって購入してしまった。

思えば、この時から私はこの「謎の男」の言うトリックにハマっていたのかもしれない。

そう、読む前からすでに、読者としての私は小説の世界に取り込まれていたように思うのだ。

そして読了後。
「そうか、その手があったな」

鳥肌が立つというわけではなかったが、一定の納得感と驚きは訪れた。

ミステリー界にも、こういう目新しさが求められているのだな、としみじみ感じた瞬間であった。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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