大人たちはさ、って思ったら“The Little Prince” Antoine de Saint-Exupery

フランス語ができたらと思った。
なぜならこの物語は、フランス語で語られ、フランス語で読まれるべきものだから。

日本語でも、英語でも、このお話の本当のところはたぶん十分に伝わらない。
小さな星の小さな王子さまから見える世界は、日本的でもなくアメリカ的でもなく、無論イギリス的でもオーストラリア的でもない。

フランスというのは、宇宙に、あるいは天国に近いところにあるのかもしれない。
けれどとりあえずのところ、このお話の舞台はアメリカである。

王子さまの住む星は家一軒分ほどの大きさしかなく、太陽は一日に44回沈む。
そこでは日没が見たければほんの数歩歩くだけでよく、
ただ一本のバラがガラスケースに入れられて慈しまれ、
彼はひとりきりである。

そして王子様は自分の星を飛び出して様々な星を旅する。
道すがら出会う大人たちは、彼には不思議な存在に映る。
「分別のある」大人たちは本質について話をしない。

When you talk to them about a new friend, they never ask questions about essential matters.
They never say to you: ‘What does his voice sound like? What games does he prefer? Does he collect butterflies?’
They ask you: ‘ How old is he? How many brothers does he have? How much does he weight? How much money does his father earn?’ It is only then that they feel they know him.
If you were to mention to grown-ups: ‘I’ve seen a beautiful house built with pink bricks, with geraniums on the windowsills and doves on the roof…’ they would not to be able to imagine such a house. You would have to say to them: ‘ I saw a house worth a hundred thousand ponds.’ Then they would exclaim: ‘Oh! How lovely.’ P12

簡単に訳してみる。


友達の話をするとき、大人たちは肝心なことをちっとも聞いてこない。

例えば「どんな声をした子なの?」とか「どういう遊びが好きなの?」とか「ちょうちょを集めてるかな?」とかはぜんぜん聞かない。
かわりに「年はいくつなの?」とか「何人きょうだいなの?」とか「体の大きさは?」とか「お父さんはどれくらいの年収があるのかな」とか、そういうことしか聞かない。
それでその子のことを知ったつもりになるんだね。

大人たちにこう言ってみるといい。
「窓の側にゼラニウムの花が生えていて、屋根に鳩たちがとまっている、ピンクのレンガでできたすてきなお家を見たんだ」
きっと大人たちはおかしな顔をするだろうね。
今度はこう言ってみるといい。
「何千万円もしそうな家を見たんだよ」
とたんに大人たちはこう叫ぶね。「まあ、すてき」


彼の目から見ると、大人たちというのはとことん大事なことを見逃しているし、つまらないことに価値を置いている。
彼の言葉にぎくりとしたら、たぶんもうわたしたちは「大人」なのだ。良くも悪くも。

‘And yet, what they are looking for could be found in a single rose or in a little water.’
‘Yes, indeed.’ I replied. And the little prince added: ‘But the eyes are blind. One must look with the heart.’ P93


「みんなが探しているものは、一本のバラやひと口の水の中に見つかったりするものなんだよ」
「そうだよね。本当に」僕は答えた。
「でも誰も目を開いて見ようとしない。大事なのは、心で見ることなんだよ」王子さまは言った。


分別のある大人になるということは、
生きていくためにはそうするしかないということは、
ほんとうに厳しく難しいですよね。

最近読んだ本に「疑問が頭をもたげる前にまず行動することが良き社会人への一歩だ」というようなことが書いてあったのだけれど、疲れてため息が出てしまいました。

彼らのいう「大人」にならなくてはいけないのならば、
ぜんぜん年を取らないまま生きていくか、大人になる前に死んでしまうしかないですよね。

でもやっぱり、大人になったからこそ得られた自由もあるのです。

本当に大切なことにちゃんと両目を開けていられる、そんな大人になりたいものです。

英語で読んでみると、日本語で読むよりも王子さまの純粋な疑問がすっと心に入ってくる気がします。
難しい英語は使われていないので、よかったら読んでみてください。
最後の王子さまとのお別れの場面は、思わず涙ぐみそうになります。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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