『人生のちょっとした煩い/グレイス・ペイリー(村上春樹 訳)』

独特の文章を書く人というのがいる。

グレイス・ペイリーもその内の一人だと断言できる。

ちょくちょく海外文学を読むのだけれど(主に村上春樹が翻訳するもの)、この本を訳すのは骨の折れる作業だったと思う。

何気ない日常の中の、ありそうで独特な悲劇。

作者自身が子育ての合間にキッチンで書き溜めたという短篇集。

彼女は今のところ、3つの作品しか世に出していないらしい。

本人の語るところによると、それは「家庭」と「政治」という小説とは別の柱が彼女の人生には注力されうるポイントとしてあったからだ。

「孫の顔を見ることのほうが、ひとつの小説を仕上げるより、今の私には大事」

こういうスタンスはアーティストには珍しい傾向であり、私が共感してしまうところでもある。

ただ、肝心の作品は非常に難解である。

「一体ぜんたい、これは何をいいたいのだ」という作品が多く、しかも短編であるものだから多くの物事が謎のままになっている。
おそらくは彼女自身の頭のなかに広がる日常の1コマを切り抜いて、文字という形にしたのだろうが、それが読む方の論理立てとうまく咬み合わない。

「何が言いたいかわからない」と評されることのある村上春樹でさえ、彼女のクセのある文体に苦労した。

サリンジャーのように宗教的ではないが、非常に物事を奥深くまで考え、事実をある意味で歪めて見せてしまうようなところがある。

この世に絶望し、諦め、それでも何かを発せずにはいられないひとりの女性のつぶやきのようなものが散見される。

これは、私がもう少し大人になって、人生の辛酸を舐め尽くした頃にもう一度読みたいと思った。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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