『光の帝国 常野物語/恩田陸』
「恩田陸の作品は『夜のピクニック』だけだ」ーー
そんな声を耳にしたことがある。
彼女の著書の中で良作といえるのがそれだけだということだ。
確かに、『夜のピクニック』はすごくいい。
誰かが成長する過程に必要な要素が詰まっている感じ。
けれど、そうじゃない。
彼女の書き方は、なんというか振れ幅がある。
例えば『ドミノ』では、犯罪を絡めた痛快なドタバタ劇がリズムよく繰り広げられる。
そんな風に、作品によって作風をガラリと変えられるところが魅力でもあり、作品によって読者層が違う所以とも言える。
今回の『光の帝国 常野物語』は、短篇集でありながらある一族の話という点で一貫している。
膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を見聞きできるちから、将来を見通すちから、
そんな特殊な能力を持った人々が、自らの能力を隠しながら生きているさま。
人間本来のあり方。
抜きん出た能力を異物と恐れ、排他しようとする人々。
欲。
非現実的でありながら、あまりにもリアルな心の描写。
「手持ちのカードを使いまくる総力戦になってしまった」と作者が語る、渾身の連作短編集。
ふと、普段は顔を見せない、人間の潜在的な能力のお話に頭を巡らせてしまうのであった。
書いた人
-
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍、ペーパーバック(紙の書籍でお届け。POD=プリントオンデマンドを利用)
販売価格:電子書籍450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)、ペーパーバック2,420円
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
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