『光の帝国 常野物語/恩田陸』

「恩田陸の作品は『夜のピクニック』だけだ」ーー

そんな声を耳にしたことがある。

彼女の著書の中で良作といえるのがそれだけだということだ。

確かに、『夜のピクニック』はすごくいい。
誰かが成長する過程に必要な要素が詰まっている感じ。

けれど、そうじゃない。
彼女の書き方は、なんというか振れ幅がある。

例えば『ドミノ』では、犯罪を絡めた痛快なドタバタ劇がリズムよく繰り広げられる。
そんな風に、作品によって作風をガラリと変えられるところが魅力でもあり、作品によって読者層が違う所以とも言える。

今回の『光の帝国 常野物語』は、短篇集でありながらある一族の話という点で一貫している。
膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を見聞きできるちから、将来を見通すちから、
そんな特殊な能力を持った人々が、自らの能力を隠しながら生きているさま。

人間本来のあり方。
抜きん出た能力を異物と恐れ、排他しようとする人々。
欲。

非現実的でありながら、あまりにもリアルな心の描写。

「手持ちのカードを使いまくる総力戦になってしまった」と作者が語る、渾身の連作短編集。

ふと、普段は顔を見せない、人間の潜在的な能力のお話に頭を巡らせてしまうのであった。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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