『博士の愛した数式/小川洋子』
「ぼくの記憶は80分しかもたない」
家政婦の仕事をする私の新しいお客様は、体中にメモをたくさん貼り付けていた。
天才的な頭脳を持つ数学研究者に訪れた悲劇。
記憶が上書きされてしまう博士を前に、毎日初対面の二人としてぎこちない挨拶を交わす。
そしてそんな日々は、「私」の息子である「ルート」の登場によって変化を見せる。
記憶がもたないからこそ、彼の世界は数学的な完璧さでもって満たされている。
「美しい」
彼は、数字のもつ無矛盾をそう表現する。
それはきっと、彼にしか見えない世界なのだ。
彼が私たちに親切に見せてくれる数学の端っこは、彼の傍にいるものだけが触れることを許される種類の美しさなのだろう。
数字を眺めていると、その規則正しさに身を委ねていると、日常の不完全さがやけに際立ってくる。
不器用で、不格好で、美しくない。
それでも世界には数学という概念がある。
それを胸や頭の中に持っているだけで、十分じゃないか。
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
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著者:田中千尋
販売形態:電子書籍、ペーパーバック(紙の書籍でお届け。POD=プリントオンデマンドを利用)
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