『夜のくもざる/村上春樹』

コアなファンにとっては、「きたきたきた、この名コンビを待っていたのだ」ということになるだろう。

それほどまでに、この村上春樹×故・安西水丸のコンビはぴっちりとハマっている。
特に、村上春樹のゆるゆるふわーっとした短編に、なんとも言えないまあるい線の安西水丸の挿絵がたまらない。

といえるほどには安西さんにどっぷり浸かりきってはいないのだけれど、「この文章は、この挿絵と一緒になってはじめてその独特の世界を完結できるのかもしれない」と思わせてくれる。

「この文章が何を伝えたいのかわからない」という人が多いと思う。特に、ビジネス書なんかを好んで読む人は。
わたしだって、何を伝えられているのかさっぱり検討もつかない。

そしておそらく、書いた本人も伝えたいことなんて何もないのだろう。

「そんなことを言われても、話のほうが勝手にやってくるものだから、僕としてはそれを文章という形にしているだけなのだ」と恐縮気味に言っていそうだ。

彼の文章のそういうところに、救われる。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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