『神様のボート/江國香織』

昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。
ママがいう「あのひと」に会うために、あたしとママは「旅がらす」をしている。

狂気じみた愛に生きる一人の女性と、その娘。

必ず戻る。どこにいても君を探しだす。
そう言って去ったかつての恋人を、ママはずっと待っている。

娘は母親を愛しながらも、現実を生きてゆき始める。
まだ見ぬ父親を探しながら、母親と引っ越しを繰り返す日々。
「あのひとのいない場所に、なじむわけにはいかないの」
そう言い続けるママの傍で、あたしはどこにもなじめない。

作風は、よしもとばななに似ているな、という印象。
けれど、よしもとばななが、とろとろとした濃厚なマンゴースムージーのようだとしたら、江國香織はほんのり甘いラズベリーのジュース。
どちらも、静かで穏やかな夏の波打ち際にいて、午後とも夕方ともつかない時刻にまどろんでいるのだけれど、少しだけ温度が違う。

よしもとばななを読むほど現実から離れてしんみりと考え事をしたい気分ではないけれど、めまぐるしい毎日に耳を塞ぎたくなったら、江國香織だ、と発見した気持ちだった。
新しい作家さんに出会うというのは、いいなぁ。と思った瞬間でした。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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