『シドニー!/村上春樹』

二十世紀最後の年、2000年。
十七日間に渡って行われた「シドニーオリンピック」。

人々は自国の応援に狂喜し、商業と権威の象徴と化したオリンピックを消費する。
ところはオーストラリア。
英国から島流しされた白人たちが乗り込み、友好的な先住民のアボリジニーを追いやったのか、それともそれは共存の一種だったのか。
とにもかくにも、そのオリンピックは「平和の祭典」という名のビッグビジネスであったと同時に、オーストラリアに住む人々にとってひとつの「謝罪と区切り」の機会だった。

その中で、肉体の限界に挑んだ選手たちは、純粋に、あるいはしたたかに自分自身と戦い抜く。

著者は、退屈な開会式に出席し、すし詰め状態の列車に乗り込み、スタジアムでホットドッグをかじりながら観戦をする。
興味が無いと言いながらも、やはり心揺さぶられるいくつかの歴史的瞬間を肌で感じることになる。
それらは、決してテレビからは感じ取ることのできない種類の揺さぶりだ。

莫大な時間とお金、無数の人々の想いが絡まる現場で、様々なことを感じ、体験し、文章に起こしてゆく。
そんなリアルタイムな臨場感が感じられる二冊だった。

わたしがもう少しスポーツに興味があれば、もっと面白かったのかもしれないけれど。

ところで最近、仕事をしていないということもあって日常がいつも夢みたいにふわふわとしている。
眠りがやけに浅く、夢をよく見る。睡眠時間はたっぷりあるのに、慢性的な不眠状態である。
時間があるからついついたくさん考え事をしてしまい、頭が休まらない。

そのせいかどうかはわからないが、エッセイのような即物的な読み物を好んでいる今日このごろ。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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