『辺境・近境/村上春樹』
みんな大好き、村上春樹氏の旅行記シリーズです。
歳を重ねていくと、若いころのようにリュックひとつ担いで放浪の旅をするということが、体力的にむつかしくなってくる。
そして、経済的にも満たされてくるから、「わざわざ何も、好んで貧乏旅行しなくても」ということになってくる。
そういうわけで、著者は多分、おおよそ何十年か振りのバックパック旅行に出かけることになった。
久しぶりにリュックを肩にかけた。
「うん、これだよ、この感じなんだ」
メキシコでほとんど悪夢みたいなバスに揺られる。
なぜわざわざ、メキシコで旅なんてするのだろう?
現地の人にすらそう聞かれるのだ。
ノモンハン。
戦争の痕跡が生のまま残っている。
中国側から見たそこと、モンゴル側から見たそこはどのように違っていて、またどのように似通っているのか。
北米横断――。単にアメリカという国を、横に突っ切ってみたかった。
「行為自体が目的である」と彼は言う。
作家の聖地と呼ばれるNY郊外の超豪華コッテージ。
無人島で理不尽に襲いかかる虫の大群。そこはきっと、人間が足を踏み入れる場所ではない――。
震災の後、故郷神戸を歩く。
短くこざっぱりとした旅行記には、ガイドブックには乗らない個人的な体験や、所感が混ぜ込まれる。
そうすることによって、読む側としてはまるでそこに行ってその人と話したような、実際に虫に襲われて、趣味の悪いメキシコのカントリーミュージックに辟易しながらバスのでこぼこに何時間も揺られるような、そんな体験が肌に沁みてくる。
もちろんそれは、著者の秀逸な筆があってこそなし得る技なのだけれど。
旅というのは、基本的に消耗するものだ。
けれど、僕らはどうしたって、旅に出ずにはいられないのだ――。
同感である。
ブログ運営者
-
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
新しい書きもの
言葉の切れ端2021.03.06絶望的な話からはじめること[言葉の切れ端206]
言葉の切れ端2021.03.03抜かれたクッキーの味方をする仕事[言葉の切れ端205]
言葉の切れ端2021.02.28何もかもが変わってしまう[言葉の切れ端204]
言葉の切れ端2021.02.25有限な資源は無限に近づいている[言葉の切れ端203]
新刊発売中!
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍、ペーパーバック(紙の書籍でお届け。POD=プリントオンデマンドを利用)
販売価格:電子書籍450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)、ペーパーバック2,420円