『イルカ/よしもとばなな』

久しぶりに、よしもとばななが読みたくなった。
最近、仕事に追われ、そこでの新しい人間関係を作り、休日はもうひとつの世界(本や考え事の世界)に入り浸りになっているせいで、現実としての愛だとか恋だとか、そんな揺れ動く感情にあまりに鈍感になっている自分がいた。

わたしの理想は、無である。
何もない場所。
それが叶わないなら、「凪のように生きる」こと。
波瀾万丈なんていらない。

けれど、長くその状態を続けていると、平和ぼけしてくる。
浮遊感からうまく抜け出せなくなってくる。
針でちょこっと指を刺して、そこから本当に血が出るのかを確かめたくなる。

もちろん実際にそんなことはしないけれど。

今回の主人公も、ある意味でそんな風。
どこか現実を生きているようで、何もかもを悟っている。
求めない。

けれど、本当に?
自分の中に、無意識のうちに救っている現実的な血なまぐさい感情。

それが、愛であり恋であるのだと思う。
そういう書き方が、よしもとばななはすごくうまい。

結婚というかたちをとらず、それでも好きな人の子供を身ごもり、産む決意。

それは流されているのではなく、自然な流れを読んだ上での主体的な流れ方なのだ。
自分を強く持っていると、その城の中にいる時は平和だけれど、どんどんと閉じて固くなってしまう。

「そうやって許さなくちゃいけないことが増えていくのは、幸せなことだった。潔癖でかたくるしかった自分の人生がぐちゃぐちゃに壊れてどろどろに混じっていく、今度はその泥の中からはどんな蓮が咲くんだろう? そう思った」P192

さて、わたしのこれからの人生は誰がどんな形で狂わせてくれるのだろう。
わたしは全然一人でも平気なのよ、と余裕で構えているくらいでちょうどいいのだ。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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