『天国旅行/三浦しをん』

三浦しをんの本は、表紙が美しい。
わたしの中では、そんな印象になっている。
繊細な線で縁取られた、パステルカラーの絵。
著者の紡ぐ、繊細な人間の気持ちをうまく表しているように見える。

死。
めまぐるしい日常を送る中で、わたしたちがなかなか意識しないもの。
けれど、死はふっとわたしたちの前に現れる。
予期せぬ形で。

弱々しい自殺の決意。
身分違いの恋に病んだ末の心中の決意。
盆に現れる幽霊。
抗議の焼身自殺。
死んだことにすら気づかない、突然の事故死。

そのような死の淵に至った本人はもちろん、周りの人々もその死のエネルギーに時として触発される。

死ぬこと。
そして、死の決意。
それらの間は、紙一重なのだろうか。
事実として、起こったか起こらなかったかの小さな違いなのか。

それにしては、両者の間を隔てる深刻性の大きさがあまりにも大きい。
流れる空気の重み。
日常の延長線と、そこから完膚なきまでに切り離された異世界。

それらの入り口を、わたしたちは身近な人の死を通じて少しずつ身に染み込ませていくのかもしれない。
いつか自分がきちんと死ぬために。

今この時、わたしのなかを流れる血の色、温かさを妙にリアルに感じたのだった。

死をテーマにしてはいるものの、決して暗くはない。
ほんのりオレンジ色に火が灯るような短篇集。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

新刊発売中!

できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍のみ
販売価格:450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。