『すいかの匂い/江國香織』
少女でいるときにしか、見えないものがある。
少女でいるときにしか、感じられないものがある。
少女でいるときにしか、できないことがある。
それはきっと、おとなになったらすっかり忘れてしまうか、頭の奥にしまいこまれてしまう。
けれど、妙にずっと残っている記憶というのもある。
どきどきしたこと。
ちょっと悪いこと。
自分というものを確かめ始めるとき。
それは匂いとして、
音として、
細部の風景として、わたしたちに残る。
それは何の役にも立たないけれど、きっとわたしたちを支えてくれている。
あの頃はみんな少女だった。
わたしはいつ少女を卒業して、少しだけ汚くなったのだろう。
いや、少女の頃だって、その頃こそ、ずるかったのかもしれない。
繊細で、世界は謎に満ちていて、それでも自分の足で立たなくちゃならないと思っていたから。
それでも、太陽は眩しくて、海はどこまでも遠く透き通っていて、お父さんはスーパーマンで、わたしはなんでもできると思っていた。
そんな少女時代の思い出は、胸にそっとしまってある。
なのに、どうして江國さんにはわかってしまうのだろう。
わたしだけの秘密だと思っていたのに、これは誰にでもあることなのだろうか。
そう思うと、少しがっかりしたような、安心したような、透き通るような気持ちになるのだった。
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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