『ブレイブ・ストーリー/宮部みゆき』

宮部みゆきといえば、コテコテのミステリーの代名詞的存在だ。
と、思っていた。

『ブレイブ・ストーリー』といえば、アニメ化されて人気の映画となった。
ああいう子ども向けのファンタジーものはちょっとな…

そう思って特に手にすることもないまま今に至った。
けれど、本を読むようになって、宮部みゆきという人を知って、彼女の書いた作品なら読んでみたいかもしれない、と思った。
あの人が殺人や血なまぐさい事件でない題材に挑むとしたら。いったいどんな作品になるのだろう?

何の変哲もない、平和な毎日を過ごしていた主人公のワタル。
そんな彼に、突然両親の離婚話が振りかかる。

こんなのは間違っている。
僕は運命を正すんだ。

そう決意して、ワタルは幻界(ヴィジョン)へと旅立つ。

人間たちの想像力が生み出したとされる、幻界。
そこでワタルは、自分の運命を変えるために旅を続ける。

この「幻界」の描写がまた、恐ろしいほどに人間の心を映し出している。

あらゆる感情、それぞれの価値観、それゆえの争い。
富、貧しさ、愛、孤独。

これは決して、お伽話なんかじゃない。

勧善懲悪の、白か黒かの話じゃない。

きれい事ではない世界の有り様が、痛いほど胸に突き刺さってくる。
それでも、絶望することなく前を向く少年に、救われた気がした。

この世はどうしようもないくらい残酷で、報われない世界かもしれない。
闇に引きづられそうになるかもしれない。

けれど、ここはちゃんと光のある場所だ。
その光を見るためには、ちゃんと自分で顔を上げなくちゃならない。

いつまでもうずくまって泣いてばかりいても、助けてくれる神様は現れない。
立って、顔を上げるんだ。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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