『乙女なげやり/三浦しをん』

三浦しをんのエッセイ、ということで、表紙にいささかの違和感を覚えつつも、古本屋での出逢いを無視するわけにもいかず、購入に至る。

三浦しをん、という人を、わたしは大きく勘違いしていた気がする。
いい意味でなのか、そうでないのか、自分でもわからない。

ただ、『舟を編む』『きみはポラリス』『天国旅行』なんかを読んだ時の、天の上にいる人みたいな印象は、あっけなく消え去った。

いや、この人は、もっと黒黒としたミステリーなんかも書いているはずなのだ。

ところがどうだろう。
このエッセイには、ある意味では自堕落な著者の私生活(失礼)、二次元的世界に魅了されたある種の女性的一面、行き過ぎた謙虚さとも取れる、ネタにあふれた日常が描かれている。
これは、あの三浦しをんとは別の人間なのだろうか?
思わずそう思わされる。
同時に、奢らず進化を遂げ続ける人というのは、こういう柔軟性を持つものなのだろうかとも思う。

同時に、人間の多面性に驚かされる。
いろんな面を持って、例え使いこなせなくとも、それらをその時どきで適当に表に出して、人は人になる。

三浦しをんという「作家」の「人」の部分が、このエッセイにはあった。
愉快な女性の、半ば自嘲気味な「日常さらけ出し世間話」といったところか。

そうは言ってもさすがはベストセラー作家。
文体の読みやすさ、日常の中の着眼点の中にも、「おお」と思う場面がいくつもあった。
こういう軽い読み物は、なかなかよろしい。
どんな精神状態の時も、時間が切羽詰まっていても、軽い気持ちで読めるから。

「そうやな、仕組みのわからない出来事は世の中にいっぱいあるな」
と、祖母はあっさりとうなずく。
「それにしても、昔は八十年生きたってファックスもパソコンもなかったけど、今の年寄りはいろいろ覚えなあかんことができてくる。長生きするちゅうのもホントにつらいな」P32

やはり人間、「今の自分は百パーセントの俺じゃない。もっともっとバージョンアップした違う自分になれるはず」と、己の分をわきまえぬ思いを抱いてしまいがちなようだ。P78

「『コレひょっとして損してんじゃねーか?』というぐらいビミョーな幸せ」を探すことに、全力を傾注したいと思う。P126

適度に他人を無視する現代の都会生活は、冷たいとしても、居心地のいい冷たさであると実感した。P190

彼女の小説のファンにエッセイを読めとは言わないけれど、エッセイだけを読んでいる人がこの人の小説を読めば、度肝を抜かすに違いない。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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