裏切られた二次会

「全くひどい二次会だった」

学生時代のバイト仲間が結婚した。幾分焦りみたいな気持ちもあったかもしれない。結婚式二次会の帰り、その先輩は苛立っていた。

「あんなのは新郎新婦の趣味を見せびらかすだけの会じゃないか」

「先輩、落ち着いてください」私は少し電車の中で周りを気にした。

「でも、今日はあの2人の結婚式なんだから、当人たちが幸せだったらそれでいいじゃないですか」

「だってさ、ゲストは誰なんだって話だよ。俺ならあんな二次会にはしない」このセリフだけを聞くと、先輩という人はとてつもなくホスピタリティに溢れた聖人のように聞こえるかもしれない。

確かに先輩はいい人だ。女の子への気遣いもできるし、人を楽しませる企画には労力を惜しまない。実は私はこんな先輩を持ったことを密かに誇りに思っていたりする。
でも。残念ながら彼には何かが決定的に足りない。足りないのか多すぎるのかはわからないが、絶妙なところでストライクゾーンからは外れてしまう。
そんな彼のことだから、きっと自分の結婚式の時にはゲストを楽しませる企画をとことん練りに練って、結局ゲストも花嫁も置いてきぼりの企画を披露してくれるに違いない。

「そりゃまぁ、私が結婚する側だったら、できるだけ来てくれた人たちが楽しめるように、たとえ自分たちが幾らか大変な思いをしようと準備をするんだろうとは思います。それがいいか悪いかはわかりませんが。でも、出席する立場から言えば、当人たちが幸せそうだったらそれでいいんだと思います。その顔を見るために、高い会費を払ってお洒落して、こんな港町まで来てるんですから」

「そんなことを言ったらお前。ゲストを楽しませるために新郎新婦がげっそりしていたら、それこそゲストはいい気分にはならないぜ。お前の論理から言うと」と、先輩はもっともなことを言った。

パーティードレスに身を包んだ人々は、暗いトンネルに夜光虫のようなライトを掲げる地下鉄に乗って、それぞれの日常へと舵を切っていた。それは言うなれば、自由意志による舵ではなく、渦潮を避けるための舵であるのだろう、ある種の人々にとっては。

「究極的な理想論を言うと」私はいつになく熱っぽく語っていた。
日頃ほとんど人と議論を交わすことなどないためか、すすけた古民家の埃のように、はたいてもはたいても言葉が後を紡いで出てくる。

「新郎新婦は心から楽しんで愛をこめて準備をする。そして参加する人々も心から祝福し、さらに内容も楽しめるってのが理想ですね。これだけ準備をしているのだから喜んでくれるべきだ、わざわざ時間を取って遠方まで足を運んでいるのだから、もてなしてもらって当然だ、そんな期待があるとその時点で相手を思いやる気持ちよりも自分の満足が先に立ってしまいます」

「それはお前、綺麗事ってもんだよ。理屈ではそうかもしれないけれど、俺達の感情はそこまで出来が良くない」そう私を諭す先輩は、私が先ほどゲームで当てたばかりの重いマッサージ器を2つも提げてくれていた。繰り返すが、彼は女の子への気遣いに抜かりがない。

私はその後、結婚したばかりの先輩の新婚生活の話を聞いた。幸せと苦悩と戸惑いが入り混じった複雑な話だった。それから、いくらか稼ぎのいい男を探す必要のある同期の女の子2人の話と、出会いが全くと言っていいほどないと嘆く先輩の話と、割にあわない激務を強いる会社からの転職を目論む先輩の話を聞いた。

誰も彼もが複雑で答えのない問いを続けている。

便利な一言で言うと、「いろいろあるよね」

かく言う私は、愛について悶々と考え始めていた。男も女もなく、ただ仲間と馬鹿みたいにじゃれあった若い日々はもう終わったのだ。次のステージへ進むために、それは私がきっと進歩と信じる類のものだが、私は子供を卒業した。

それはある種の切なさ、悲しみを伴う作業ではあったが、時間というものは少なくとも今の時点で不可逆的なものと定義されている。

自由と引き換えに手に入れる「人生への責任」という重石が、再び私にひどくのしかかってきた。

今日勝ち取ったマッサージ器にも癒やすことのできない、肩への重みを感じた。

そして、その日私は柄にもなく三次会まで残った。青春への固執と仲間への愛情を理由に、酒を飲んだ。その店の接客は、全くと言っていいほど客へのもてなしを無視し、心底期待はずれな代物だった。

あとがき

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