双子のコーラ

コーラ

「ねえ、成実。ペプシとコカ・コーラ、どっちがいい?」

はじけんばかりに膨張した二本のペットボトルを抱えて、双子の姉の亜実が駅の自動販売機から戻ってきた。うっすら汗ばんで色が変わったグレーのTシャツの下で、肩が息をしている。

「どっちもいらない」あたしは表情を変えずに答える。

「なんで! 何でもいいって言ったじゃん。あんたダイエット始めたんでしょ。ほら、ペプシ、カロリーないほうにしたから」

「骨が溶ける」

「成実、まだそんなこと信じてるの? あんなのお母さんが作ったデタラメだよ」成実に向かって差し出された亜実の手が、行き場を失ったままだらりと下ろされる。

「ゼロカロリーは、体に悪い」
あたしはなおも駄々をこねてみる。

「じゃあコカ・コーラにすれば?」

「コーラの味そのものがあんまり好きじゃない」

「はあ?」

あたちたちは、ぜんぜん違う。考え方も、性格も、見える世界も、好きな食べ物も、嫌いな先生も。
同じところもある。顔とか、体型とか、声とか。そんな見た目だけで、周りのみんなはあたしたちを一括りにしてきた。あたしはいつも亜実の片割れであり、成実としてだけのあたしはどこにも見つけられなかった。

「もういい。私、ペプシ飲むからね」

ついに亜実がしびれを切らし、黒色のラベル部分を掴みながら黒色の液体の入った500mlのペットボトルの蓋に手をかける。
ぶしゅうううう。茶味がかったクリーミーな泡が亜実の手を伝ってアスファルトに消える。

「うわっ」亜実は慌てて退くも、その源泉は手の中にしっかりと握られているため、どこまでも追いかけてくる。あたしは本当にこの間抜けの片割れなんだろうか、と成実はため息をつく。

成実たちは今日から二週間、山梨にある叔母の家に二人で滞在する。お母さんの妹である叔母は、Webデザイナーとしてばりばりと働きながら四十五歳になる今でも独身を貫いている。共働きの両親を持つ亜実と成実は、小さい頃から長期休暇のたびに叔母の家に預けられていた。彼女は二人に「叔母さん」と呼ぶことを許さず、「響子さん」と呼ばせていた。

「もう中学生なんだから、響子さん家に預けられなくても留守番ぐらいできるのにさ」
あたしはベンチの上で足を組み、誰に言うでもなくこぼす。

「仕方ないじゃん。響子さん一人なんだし、これも叔母孝行だと思ってさ。山梨の川はきれいだし」

親孝行ならまだしも叔母孝行なんて聞いたことがない、と成実は心の中だけで嘆息する。今ごろタカシもアカリもミッツも、成実抜きでカラオケに興じたりしているのだろう。そう思うと憂鬱な気分になる。

屋根のない駅舎はうだるように暑い。それは東京で感じる、街に閉じ込められたような熱気とは違い、太陽と大地が生みだす正真正銘の暑さだった。

「あー、クーラー。あついわ。焼けるわ。喉かわいた」
普段空調の効いた部屋を行き来しているだけの帰宅部には、自然の暑さが体にこたえる。

「ほれ、冷たい炭酸。ぷはー」
ソフトボールでよく焼けた肌を再び差し出し、半分減ったペプシを美味そうに飲む姉。

「あんたの肌、コーラみたいだね」
日傘の下で白い腕をさすりながら、成実は言う。いつからだろう、あたしが亜実と正反対のことをするようになったのは。

「響子さんが来るまでに飲んじゃわなきゃね。あの人健康志向だからいろいろ言ってくると思うよ」

「うーん、この不健康な味とも、しばらくお別れかあ」
亜実が実に残念そうに呟く。体育会系の部活に入っているにもかかわらず、亜実は炭酸をよく飲む。

「響子さんが来るまでに、あと一本半かあ。ちょっときついなあ」と、亜実がうらめしそうにこちらを見る。

「コーラ、ちょうだい。コカのほう」

「何よ、結局飲むんじゃん。いいんだよ、無理しなくても」
そう言って亜実は、まだ蓋の開いていないコカ・コーラを成実に手渡す。

ペプシでもコカ・コーラでもなく、あんたと同じやつが飲みたかったんだよ。って、いつかちゃんと言えますように。成実は「ありがと」と小さく呟く。

ぷしゅう。
まだ振られた余韻を残したコーラは、ほんの少しこぼれ、成美の白いスニーカーを濡らした。

ごくり。
よく冷えたきつい炭酸は、体じゅうをめぐり、夏の感覚を思い出させてくれる。

「ねえ。響子さん、またカルピスと炭酸水買ってくれてるのかな」亜実が上を向いてペプシを飲み干した首を戻しながら言う。

「あの人、なぜかカルピスは健康にいいと思ってるよね。カルピスソーダ、好きだからいいけど」
響子の白いミニバンがロータリーに近づいてくる。夏休みはまだ手つかずの状態で残っている。

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あとがき

この物語を楽しんでいただけましたか?
よくよく考えたら、コカ・コーラとペプシを同時に置いている自販機なんてないよなあ、と思いました。笑
そういうことができるのが小説の醍醐味だということで。
面白かった! ほっこりした! と思ってもらえたら、以下のリンクよりnoteを購入(100円)していただけると活動の励みになります(*^^*)
※内容は同じです

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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