大手総合スーパー店長の憂鬱

電話

大学生のお子さんに仕送りをする親御さんは多いのではないでしょうか?
通販や宅配が発達し、仕送りのあり方も変わってきました。

最近では、amazonの段ボールを「mamazon」に書き換えて送るという粋なお母さんも……

今回は、離れて暮らす夫への仕送りのお話です。
四十八歳の男性に送る段ボールの中身とは?

お楽しみください。

本編

 がちゃん。

 午前零時、空腹と疲労でふらふらとする体を引きずりながら、高野大範(たかのひろのり)は玄関の鍵を回した。おまけに今日は、コンビニで受け取ってきたバカみたく重い段ボールを抱えている。真っ暗な玄関で靴を脱ぎ、適当に段ボールを下ろすと、ちょうど足の指が下敷きになった。

 「ってえー」

 段ボールを蹴り上げる気力も残っておらず、そのままずるずると部屋まで足で押していった。

 妻と息子と離れ、この街で暮らし始めて八年。初めての一人暮らしに慣れるまで、妻の携帯を鳴らしまくる日々だった。そんな単身赴任も、なかなか板についてきた。とは言っても、大手総合スーパーの店長である大範は、ほとんど自宅にいることがない。

 朝は七時の開店と同時に出勤し、午後十一時に店を閉めるまでそこにいる。週に二日ある休みも、少なくとも一日は仕事に出ている状態だ。今年四十八歳になる大範の体は、あちらこちらが悲鳴をあげていた。このチェーンの店長みながそういうわけではない。大範の勤める会社はどちらかというとホワイトなほうであったし、取ろうと思えば休みも取れた。

 けれど、妻子と離れて暮らし、その一人息子も今年から大学生。大範がここでやれることといえば、仕事くらいなものだった。店内はほとんど何もかもが電子化され、店で働く従業員たちも、まるでロボットのごとく同じ接客を延々と再現している。大範が入社した頃より、会社はとても「効率的」になった。

 大範が忙しい理由は、自治会のメンバーに聞けばすぐにわかる。「地域に根ざしたお店づくり」という形だけのスローガンを、この店長は律儀に守ろうとしていた。

 買い物に行きづらい高齢者の集まる住宅地には、買い物バスを走らせる計画を立て、実現させた。夏休みには毎日のようにイベントを催し、子どもたちにとって安全な居場所を作ろうとした。テナントには料理教室やヨガ教室などを積極的に募集し、利用者の居場所づくりと、健康づくりを心がけた。マニュアル通りを求められる立場で、いつも枠を越えて地域住民と共にあろうとした。会社の上役には煙たがられ、本社のエリートコースからは外れてしまったが、地域で愛される看板店長だった。

 スーパーで売れ残ったチキン南蛮弁当をレンジで温めながら、amazonのロゴの入った段ボールを開封した。注文者は妻の春子(はるこ)になっている。中には、白飯のパック、レトルトの魚、フリーズドライの味噌汁が大量に入っていた。そしてDVDが二枚。

 ワイシャツのボタンを外し、春子に電話をする。しばらくコール音が鳴り、留守番電話につながった。

 「そりゃ寝てるよな」大範はスマホを机に置き、割り箸に手をかけた。一人暮らしを始めてひとり言が多くなった、と前の正月明けの休みに帰った時に春子に言われた。

 ヴーッヴーッ。しんとした部屋に突然鳴り響いたバイブ音に、大範の心臓はきゅっと縮こまった。春子からだった。

 「おう、すまん。起こしたか」大範の心は久方ぶりに聞く妻の声を期待し、踊っていた。

 「いいえ。祐樹(ゆうき)が買ってきてくれたプリンを一緒に食べて、これから寝ようと思っていたところよ」春子の声は、電子機器を通してでもちゃんと大範の耳に届いた。

 「そうか。祐樹はどうだ? 大学、楽しそうか?」

 大範は、春に地元の大学に入学したばかりの息子の様子を聞いた。祐樹は、学力で言えばもっと上の大学を狙えたにも関わらず、地元の大学へ進んだ。本人は行きたい学部がそこしかなかったから、と言っていたが、自分が出て行けば一人で暮らすことになる母のことを考えての決断であったことは、両親ともに承知していた。

 「毎日楽しそうに行ってる。サークルも掛け持ちして、焼き鳥屋さんのアルバイトも始めて。懐かしいねえ、私たちが大学生だった頃。一年生に手を出した四年生の狼、ってからかわれたもんね。祐樹と話す?」

 「いや、いい」窓の外はすでに闇に包まれ、電気の点いた大範の部屋と、だらしなくよれた自身の姿だけがそこに映しだされていた。カーテンを閉じるために席を立つ。

 「荷物、届いたよ」大範はもともと口数が多い方ではない。離れた距離が、さらに言葉を奪っていった。

 「あ、届いたのね。さすがamazon、仕事が早いわあ」春子が嬉しそうに声を上げる。

 「飯はスーパーの売れ残りがあるからいらないって言ったのに」

 「あなた、いつも揚げ物とかお肉とか麺類ばかりじゃない。たまには魚とか味噌汁も体に入れるべきよ。それに、いつもいつも売れ残り食べてると、心が病んでくるわよ」春子の何気ない言葉に、大範はぎくりとした。

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 実のところ、大範はこの二年、心療内科に通っていた。慣れない一人暮らし、それに加えて激務。客観的要素は確かにあった。けれど、大範がほんとうにきつかったのは、自分たちの店ができたことにより潰れていった商店の人の嘆きの声だった。

 どんなに地域貢献をしても、自分たちの店のせいで人の人生を踏みにじってしまったような罪悪感が拭えなかった。マニュアルをきちんとこなす従業員が皆ロボットに見え、店が巨大な戦闘機に見えた。

 そしてそこに紛れもなく自分も含まれているということ、それどころか店長として店のトップに立っていることが、大範をさらに苦しめた。この頃、彼はいつも何かに追い立てられているような気がして、うまく休めなくなっていた。夜も眠れず、持ち帰る弁当も半分しか喉を通らなかった。

 過労死のひとつでもすれば、罪が償えるかもしれない。そんなことさえ考えるようになった。

 「で、このDVDは?」大範は努めて明るく聞こえるようにそう言った。

 「それね、もうすっごくいいの! 『ズートピア』は保育園で見たんだけど、ほんとにわくわくしちゃうし、『マイ・インターン』は前に祐樹と映画館で見てね、もうほんとにどきどきしちゃった!」春子は少ないボキャブラリーで、実に豊かに感情を表現する。

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 「いや、俺ん家DVDプレイヤーないし」そもそも、彼の家にはテレビすらない。

 「うちで見ればいいじゃない」

 「え?」飄々と言う春子の言葉に、うまく反応できない。

 「だから、会社辞めてうちで一緒に見ようよ」

 「何を言って」

 「だってあなた、絶対に自分から辞めるなんて言わないでしょう?」春子は引き下がらない。

 「自分からも何も、辞める理由が」

 「大範さんの健康のほうが、ずっと大事でしょう」大範の言葉もろくに聞かず、春子は穏やかな声で続けた。

 「知ってたのか」

 大範は、家族に病を知られまいと、帰省するあいだは薬も持ち帰らないほど徹底していた。

 「当たり前。何年夫婦やってると思ってるの。こないだ帰ってきた時やつれてたし、普段無口なくせに、家で妙に明るいし。ばればれ」

 「すまん」
 言葉が見つからないのではなく、唇を噛んでいないと涙がこぼれてしまいそうだった。

 「ねえ、帰ってきたらさ」顔の見えない気まずい沈黙を、春子が破った。

 「一緒にDVD見て、デートして、美味しいものいっぱい食べて、夜は二人で眠ろうね。祐樹が照れちゃうかな?」
 「うん」

 「そんでさ、気が向いたら小さなたこ焼き屋でも始めればいいんだよ。うまくいきそうだったら、私も手伝う。大丈夫、なんとかなるから。保育士の仕事は、年取ってやるもんじゃないわ。腰に来るね」
 「うん」

 「だから、ちゃんと食べなね。心がしんどい時こそ、食べるものってほんとに大事なんだから」
 「うん」

 「じゃあ、おやすみ。よく眠れるBGMが流れるアプリ、あとでメールしといたげる」
 「おう」

 電話を切ると、またあの静寂が大範を迎える。けれど、今度はもう突き刺す冬の空気のようなそれではなく、優しく彼を包む、温かい羊水のような静けさに変わっていた。

 大範は本棚の上のよく見える位置に、そのDVDを二枚並べた。
 代わりに、そこに置いてあった辞表を手に取り、鞄の中へ入れた。

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あとがき

この物語を楽しんでいただけましたか?
わたしも何度か一人暮らしをした経験があり、仕送りのありがたみは身にしみて知っています。
特に、海外にいるときの仕送りは神からの恵み……

面白かった! ほっこりした! と思ってもらえたら、以下のリンクよりnoteを購入(100円)していただけると活動の励みになります(*^^*)
※内容は同じです

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