すべてをやめることにした小松さん[小さなお話65]

「目標があるのはいいことだ、もちろん。そこに自分の夢を重ねられたら、生きる原動力にもなるだろう。でもな、自分の目標を数字で表せられるものにしていると、だんだん苦しくなる」

すべてをやめることにした小松さんはそう言って笑った。疲れているみたいに見えた。

「それが小松さんが二十五歳で現役を引退した理由ですか」
ぼくはメモを片手に小さく聞いた。ボイスレコーダーを使わないのがぼく流だった。

「いや。会社のほうだよ。みんなに乗せられていい気になって作った、あの会社だ」

「サプリメントの。大成功したんですよね」
ひどく喉が渇く。まるで小松さんに水分を取られているみたいだ。

「数字の目標はきりがないんだ。特にそこに円マークがつく場合には」

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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