SNSでアウトプットすること[小さなお話68]

頭の中で、今日の飲み会でまりえが言ってくれた助言を反すうする。

「のんちゃんはさ、本ばっか読んでインプットしすぎなんだよきっと。だから知識ばっか増えて、自分のものになんないから、うまく使えないんだ。ツイッターやりなよ。アウトプットの練習すると、理解深まるよ」

私はそれを聞いて、ほうほうと納得して、まりえが教えてくれたことを理解しようと何度も心の中で繰り返した。
それで私が返事に時間がかかっているあいだに、芝本さんが口を挟んだのだ。

「でもさ、SNSでアウトプットしてる人って、本当に理解が深いと思う? なんか肥料をやりすぎた野菜みたいに、無駄にぶくぶくと成長して、栄養も味もいびつっていうかさ。わかんないけど」

それに対してまりえが何かを言い返して、私は二人の会話の速さについていけなかった。

帰りにみんなと別れて二十分も経って、最寄り駅から暗い道を歩き出して、冷えた新鮮な空気を吸っていると、やっと二人の会話がわかってきた。

どうしたって私は、理解するのにこうも時間がかかるのだろう。
それで今思うのは、まりえは優しさから私にそう助言してくれたのだし、芝本さんはどこまでも正しくて、だから二人は仲直りしてほしいということだ。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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