それは愛なのか、エゴなのか

どこまでも続く、広い草原。
その中で見つけた、たった一本の木。

大きいわけではない、けれど確かに頼りがいのある存在。

僕らはそこに腰を下ろす。
陽の光をいっぱいに浴びた体は、ぽっぽと火照っている。

木の陰は、優しい涼しさで満たされていた。
ここには僕らしかいないみたいだ。

君は僕の膝の上に頭を乗せ、安心しきったようにすやすやと眠り始める。

あぁ、もう少し話していたかったのに。
そんなことを思いながら、僕はとても幸福だった。

月に一度しか君に会えない。
この草原でしか、君の笑顔を見ることはできない。
足りない気持ちがむくむくと膨れ上がり、また会えなくなる日々が怖くて、会うのが嫌になることもある。

恋をするっていうことは、人生が途端に薔薇色になるんだと思っていた。
毎日ウキウキして、次に会える日を指折り数えて、愛に溢れた人生のできあがり。
みんなが言う充実した人生には、判を押したみたいに恋がついてくる。

会っている時の、あの嘘みたいな幸福感を思い出す度に、君に会えない時間が辛くなっていく。
一人で過ごすのなんて何でもなかったのに、時計の針が残酷なくらいゆっくりと時を刻む。

傍から見れば幸せな二人。
本人たちにしても幸せな二人。
でも。こんなこと言うのはわがままなのかな。
僕は女々しいやつだろうか。

僕が独り占めするにはもったいないくらいの、晴れ渡った天気の下で、君に問いかけてみる。
君は答えない。

僕は何かを確かめたくなって、君にくちづけをしようとする。
「あ」僕はあることに気づき、一人で笑ってしまう。

君にくちづけするには、まず君を起こして僕の膝から起き上がってもらわなくちゃいけないじゃないか。

そんなこと、できるわけがなかった。

僕はそのまま、目をつむって幸福な時間に身を沈めた。

あとがき

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投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
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