マシュマロ奥さん

ぽっちゃり、という言葉がある。
僕の友人が僕の奥さんのことを呼ぶときの形容詞だ。

僕はというと、仕事でもプライベートでもかなりストイックな生活になりがちなので、痩せているほうだ。

合わなさそうなのに、仲いいよね。

結婚式の司会をしてくれた僕の友人は、今でも飲みに行く度に僕をからかう。

僕はこっそり思う。
僕らは、本当にいいコンビなんだ、と。

まるで二人で一つみたいな感じでさ、すっぽりといい感じにおさまるんだ。

お肉と白いご飯を頬張っている時の彼女なんてさ、もう本当にたまらない。
この世の幸せを全部ここに集めました! って感じの顔をしているんだ。

彼女は毎朝8時きっかりに、僕をハグしてくれる。
優しく包み込むように。

ふわふわとした彼女の体に包まれていると、日頃のギスギスした何かが羽でも生えたみたいにどこかへ行ってしまう。

「ウォーターベッドみたいだ」
ぼくはうっとりとして、目を瞑る。

途端に、僕の凝り固まった肩を、彼女のクリームパンのような手がプレスし始める。

「いてててててて、降参」
彼女はときたま、むっとするらしい。

そんな妻が、最近ダイエットを始めた。
それから、通信教育の資料なんかも取り始めた。

僕は知っている。

妻は顔立ちがきれいだから、ほっそりとしたらとてつもない美人になるということを。

そして、僕は知っているよ。
好きなことなんてない、何もせずにあなたに守られて暮らしたい、なんて言っている君だけれど、
心理学のことになるといつも鼻の穴が膨らむんだ。

優しくて強い君は、人を癒す仕事、向いていると思うよ。

僕は君の方を向いているのも好きだけれど、君が目を向ける方角と同じ方を向いて、君の背中をそっと押すのはもっと好きなんだ。

がんばれよ。

だめになりそうだったら、一度下を見てまた前を向くんだ。

それでもだめなら、また僕の方を見て、そこからやり直せばいい。

何もかもをわかったふりして、悟ったふりして、諦めることのないよう。

人生は冗談抜きで一度きりなんだ。

僕は、妻の見ていないところでおいしいアイスクリームを食べた。

きっと人生におけるストイックさは、夫婦でバランスを取った方がいいだろうからね。

今日は僕が晩ご飯を作ってあげよう。梅としらすのパスタなんてどうだろうか。
肉がない、と怒られるかな。

あとがき

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