【引きこもりの北欧紀行】第一章その7 スウェーデンでの朝食
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Sweden Day2
目を覚ますと、午前六時を少し回ったところだった。僕の部屋には窓がない。壁に沿って申し訳程度にカーテンが掛けられているだけだ。朝陽がないと、人はうまく朝を認識できないらしい。
あまり眠った気がしなかった。足はだるく、顔は脂ぎっている。随分とひどい顔をしていた。
ありがたいことに、僕の宿泊したホテルには朝食がついていた。時計が午前7時を示すと同時に、僕は地下にある食堂へと向かった。トマトにきゅうりにハムにチーズ、大きなボウルに山のように入ったヨーグルト、そして素朴で旨いパンがずらり。僕はにわかに元気を取り戻した。
1対4。僕なりの黄金比に従って、牛乳とコーヒーをカップに注ぐ。それが1.1対3.9になろうが、0.9対4.1になろうが、そんなことは僕の知ったことじゃない。数値的にきちんと決められているように見える大抵のことは、実際のところ結構アバウトな場合が多いのだ。
一人あたりのコーヒーの消費量が世界的に見てかなり多いスウェーデンは、そのせいもあってか適当に入れられたコーヒーでもかなりうまい。日本で飲むような酸化しきったコーヒーにお目にかかることはまずないし、クリープでごまかされることなくきちんと牛乳でカフェ・オ・レを作る。
僕の取ったパンは大きすぎてトースターに入らなかったため(もっとトースターを大きくするべきだ)、水平に真っ二つにするために少々骨を折る羽目になった。それにしてもこの、パンの上に散りばめられた何かの実はいったいなんなのだろう。ひまわりの種を小さくしたような見た目と、カシューナッツのような香ばしい味わいは、僕好みの少し固めのパンをより魅力的にしていた。そう、僕は米よりパンが好きだ。それも、日本でお目にかかるような歯がなくても食べられるくらい柔らかな菓子パンや惣菜パンではなく、やや固めで小麦の味を味わうようなタイプのパンだ。このパンのために、僕はここに移り住んでもいい、とまでは思わないが。
とにかくお腹が空いていました。
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【引きこもりの北欧紀行】第一章その8 迷子のあの子
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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