【引きこもりの北欧紀行】第一章その17 休息日

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はじめから読む 【引きこもりの北欧紀行】第一章 ストックホルムとヨーテボリ 静かな再獲得の旅 その1
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Sweden Day 4
 楽しい旅の合間には(特に長い旅の場合ということだけれど)、事務的な処理をこなす日や、ただじっと身体と精神を休める日というものを設ける必要がある。

 本日はホテル移動日。そして日本から持ち込んだ仕事(僕が数日間遊び呆けていた間に随分と溜まっている)に手を付けはじめなければならない。

 新しいホテルは、前のホテルとは比べ物にならないくらいの北欧的スタイリッシュさで僕を出迎えた。どこもかしこも完璧なまでにデザインされ、僕は思わずカメラを構えた。無機質で余計なデザインが削ぎ落とされたスチール製のエレベーター。どこまでも続く廊下に規則正しく並ぶ部屋。そして部屋の外には、扉と同じくらい大きな数字のオブジェで部屋番号が示されている。
その様子は、僕に今読んでいる小説の第一章を想い起こさせた。その小説へのめり込むがあまりこのホテルが僕を呼び寄せたのか、それとも僕の感覚がすっかりその小説に内包されてしまったせいなのか。どちらかはわからないが、多分後者だろう。現実世界では、ファンタジー的妄想は時として機能しない。

 今日はフィンランドの友人と合流する手はずになっていた。ところが運の悪いことに彼女のフライトがキャンセルされ、到着が夜遅くになってしまった。僕は先にチェックインを済ませ、彼女を待つ間久しぶりのデスクワークに精を出すことにした。かたかたかた。心地いいタイプ音が部屋に響く。僕は放っておくといつまでも部屋の中で過ごしてしまう。パソコンと読書を数時間ずつ、あとは軽いエクササイズでもしておけば、僕の日常は一丁上がりなのだ。近所のスーパーで簡単な夕食を調達し、僕はこれまでのように一人で食事を済ませた。一人で食べる食事はあまり味がしない。しかし、気楽なことは気楽だ。シャワーを浴びてしまうと、猛烈な眠気が僕を襲った。

 がちゃり。
 不吉なドアノブ音が僕の脳内に響き渡り、僕は飛び起きる。見るとフィンランドの友人が、疲れた笑顔でベッドの脇に立っていた。僕たちは数カ月ぶりの再会を歓び(彼女は度々日本を訪れている)、ハグを交わした。ハグというのはなんと素敵な文化か。からだじゅうに温かな安心感が染みわたる。日本人ももっとハグをした方がいい。きっともっと優しくなれる。彼女はシャワーを浴び、僕は再び夢の世界へと舞い戻った。

ホテル内装
それはホテルというよりも、現代的な美術館のようだった。

北欧デザインベッド
心地の良い眠りが訪れるかは別として、「粋な」デザインだ

北欧シャワー
シャワールームでさえこの凝りよう

北欧デザイン
洗面所。すてき。

北欧果物
手のひらに乗ってしまうくらいのスイカに、皮ごと食べられるマスカット。
おいしい。

りんご
りんごをかじりながら。
わたしは、果物を主食にして生きております。

【引きこもりの北欧紀行】第一章その18 都心の古道具屋

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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