【引きこもりの北欧紀行】第二章その11 水メロンと教会

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【引きこもりの北欧紀行】第二章その1 ゴットランド島 憧れの魔女の島へ その1

 あまり気が進まなかったが、その後僕たちは再びあの混みいったスーパーマーケットへ舞い戻った。そこで僕たちは抱えきれないくらいの買い物をし、今日と明日と明後日の食料を確保した。豊富な食料は僕たちを幸せな心地にさせた。

 僕がまたもや疲れきっていることを感じ取った彼女は、その重い荷物を一手に引き受けた。
 「うーん、いいエクササイズね。両手に持ってるほうがバランスが取れるし」
 彼女は根っからの親切人なのだ。

 親切にされることを知っている人は、人に親切にできる。だから、親切でない人を見ても決して腹をたてるべきではない。彼らはただ親切にされたことがないだけの、少し可哀相な人たちなのだ。

僕たちは腹をすかせていた。宿にたどり着くと、彼女はサンドイッチを作り、僕は野菜と西瓜を切った。

 西瓜。
 そう、僕はスイカを買った。英語でスイカのことを「水メロン」というもの妙だが、確かにスイカを「西の瓜」と書くのも妙だ。彼女に言われて気づいた。僕はその奇妙さに気付くには、あまりに「西瓜」に慣れすぎていた。僕は順番に「瓜」について思いを巡らせてみた。
 西瓜…すいか
 南瓜…かぼちゃ
 北瓜…?
 東瓜…??
 世界は謎で満ちている。

 食後に彼女はコーヒーを淹れてくれた。インスタントのコーヒーだったが、心の底から美味いと断言できるコーヒーだった。
僕はきっとこれを日本に持ち帰るだろう。満足の行くランチを終え、すっかり元気になった僕たちは、再び街に繰り出した。

自分でも信じられないくらいのパワーを取り戻し、僕は僕を誇りにさえ思った。午前に闘いを繰り広げていた人々は今や街からすっかり姿を消し、彼女はそれを残念がった。
 「多分みんな闘いで死んじゃったのね。みんな、闘いからはなにも得るものはないと学ぶべきだったのよ」
 彼女が深刻そうな顔で言うので、僕は慌てて付け加えた。
 「きっと、みんな闘いをやめて平和に暮らす方がいいって気づいたんだよ」
 「そうね。そう考えましょう」
 僕たちはここに来て、様々な憶測を並べ立てる癖がついていた。なにせ、ここは外国であるうえに時代は中世ときている。憶測なしでは何も知ることができないのだ。

 その後再び壁の中へ吸い込まれた僕たちは、幸運な事に見晴らしのいい場所に巡りあった。
この街は、本当に何から何までが物語の中にいるみたいなのだ。どの家からも今にも小人か妖精だかが姿を現しそうだったし、そのように想像できることだけでも特別なことのように思えた。毎日のように眺めても、飽きの来ない種類の家々だった。

 街の右側には大きな教会があった。ここにはたくさんの古い教会があり、どれもがおそらく中世からのものだったが、その教会は中でも一番大きなものだった。
「試しに覗いてみよう」というくらいの軽い気持ちで入った教会だったが、僕は思わず息を呑んだ。

そこは僕が今まで体験したどのような教会とも違った匂いがしたし、特別なステンドグラスがあった。
そして、その教会全体を包み込む柔らかな空気は僕を安堵させた。このようにして人は教会に導かれるのだ、と理解した瞬間だった。

ヴィスビュー
ヴィスビューという地名には、”view”が含まれている気がする。
それほどまでに、美しい景色。

教会1

教会4

教会3

教会2

ステンドグラスには、何かしら人を惹きつける魔力のようなものがあるのではないか。

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【引きこもりの北欧紀行】第二章その12 知らないことの悲しさと楽さ

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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