【引きこもりの北欧紀行】第五章その1 フィンランド 日本での家族とここでの家族
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Lithuania to Finland
念のため4:30前後に二回アラームを鳴らしておいたのだが、今回もやはりその必要はなかった。絶対に寝坊できない日の前日は、ロクに眠れたものじゃないのだ。それでも目覚めは悪く、寝不足のぼーっとした頭に除夜の鐘を打ち付けられたみたいなジンジンとしただるさが僕の頭にさらに靄(もや)をかけた。
それでも僕は起き上がった。そうするより仕方ないのだ。
僕は洗面所で顔を洗い、服を着替え、すべての荷物を詰めた。空港で食べる朝ごはんに、フルーツとパンをいくつかもらった。
彼女は僕のために早起きをしてくれ、真っ暗で雨が降りしきる中を運転してくれた。彼女が日本に来た時、僕もきっとそうする。そう心に誓って、ありがたく最後の親切を受けることにした。
そのままつつがなくフライトは敢行されるはずだった。そして、僕は弟とフィンランドの友人を四時間ほど空港で待ち、彼女の夫にピックアップしてもらうのだ。
ところが、乗り継ぎ空港からの僕のフライトがキャンセルされた。一体どんな理由があっていきなりキャンセルされたのか。
まぁ格安航空にはよくあることだ。
次のフライトは、ちょうど弟たちがヘルシンキに着く時間と同じくらいだった。ラトビアで待つかフィンランドで待つかの違いだ。大した違いではない。
近場の長旅を終え、ついに僕はフィンランドに戻ってきた。僕の友人、そしてその夫、友人V、それに今は弟も加わって、実に愉快な五人家族ができあがった。
ひと月ぶりに見る弟は、心なしか精悍な顔つきに変わっているように見えた。僕たちは夕食を揃って摂ったり、土産物を見せ合ったりして平和な夜を過ごした。
これから十日間、残りの時間をめいっぱい楽しむのだ。さあ、今日は早めに眠ろうか。
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【引きこもりの北欧紀行】第五章その2 ワタナベサラダのこと
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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