カナダ旅行記 5日目 ① 〜白黒つけない〜

《バックナンバー》
カナダ旅行記 1日目 〜行きはよいよい〜
カナダ旅行記 2日目 ① 〜真夜中の覚醒〜
カナダ旅行記 2日目 ② 〜凍った街と僕ら〜
カナダ旅行記 2日目 ③ 〜ベジタリアン〜
カナダ旅行記 2日目 ④ 〜地下の巨大都市〜
カナダ旅行記 2日目 ⑤ 〜訓練前の本番〜
カナダ旅行記 3日目 ① 〜洗濯と郷愁〜
カナダ旅行記 3日目 ② 〜会話の動機〜
カナダ旅行記 3日目 ③ 〜野菜のパスタ〜
カナダ旅行記 4日目 ① 〜朝の思考〜
カナダ旅行記 4日目 ② 〜蟻の巣〜
カナダ旅行記 4日目 ③ 〜セル瓶〜
カナダ旅行記 4日目 ④ 〜明かされぬ語り〜

起床時刻6時。毎日限界まで体力を使い果たしているものの、朝目覚めるとすっかり元気になっている。体を酷使すると、その分眠りが深くなる気がする。本当は疲れているのかもしれないが、体が動いてしまうのだから仕方がない。旅の間は騙し騙しでも動いてくれる方がありがたい。

寝巻きのまま2階に降り、いつものソファに座ってPCを広げる。そこから2時間は、僕は「僕の精神として」そこにはいない。ほとんど動くこともなく、ただ指だけを動かし続ける。
意識はずっと上の方を旋回し、上手く噛み砕かれて文字となる瞬間を、お世辞にも行儀よくとは言えないが順番に待っている。

部屋に戻るとちょうど皆が起き始めるところだった。
誰かが覚醒する瞬間というのは、傍(はた)で見ているとなんとも不思議なものだ。
彼ら(または彼女ら)はそれまで遠い意識の淵にいて、今まさにこちらの世界へ帰って来んとす、なのだ。君たちはそれでいいのだろうか。
こちらの世界へ戻るという選択は、果たして君の望むところなのか。でもそれは多くの場合、彼ら(彼女ら)の選ぶことのできる範囲外にあるのだ。少なくとも僕の場合は。

今日は3日目や4日目に比べると、ぐっと気温が下がる。
朝食の後、僕らはしっかりと重ね着をし、部屋を後にした。今日の予定は朝に集中している。というのも、従妹が午後には寮へ帰ってしまうからだ。

ぐっと気を引き締めて外に出ると、案外寒くないことに拍子抜けする。こちらに来て何よりも驚いているのが、「思ったより寒くない」ということだ。カナダに旅行するときは、「寒すぎて死ぬかもしれない」くらいの気持ちでいると、結構うれしい誤算が待っているのかもしれない。と、一日目の喉元過ぎれば熱さ(寒さ)を忘れている僕は、調子のいいことを思った。

2日前に訪れたセント・ローレンス・マーケットへ向かうべく、僕たちは足早に進んだ。一旦地図が頭に入ってしまえば、あとは結構楽に動ける。
ちなみに、一旦地図が頭に入った僕も、結構使い物になることを君は覚えておいた方がいい。
途中、大きな教会の前を通った。雲行きは少しばかり怪しかったけれど、せっかくなので教会の前で写真を撮った。
オフシーズンの今は、観光客は僕らぐらいなものだった。おまけにカメラをいつも手にしながら歩いている日本人4人組は目立ったかもしれない。

しかし、僕がここにいて感じる居心地の良さのひとつに、「浮いていない」という感覚があることも言っておかなくちゃならない。
白色人種はもちろん、黒人、アジア人がほとんどごちゃまぜに街を埋め尽くし、それぞれがお互いにとても自然に溶けこんでいる様子は、自分が部外者だという事実を薄れさせる。僅かに感じる職業の格差は正直言って否定出来ないところもある。ただ、本当に誰もが、そこにいる人の見かけにこだわっていないように見えるのだ。

僕はここに来てとことん、日本に来る観光客たちに申し訳が立たなくなっている。
殆どの日本人はまともに英語が話せない(もちろん僕も話せる分類には入らないと思うが)。
街中で外国人を見かけると、物珍しくジロジロと見つめる。
なんと閉鎖的で独善的な態度か。前提として、僕は日本が好きなのだ。日本以外の場所で生きていく気はしない。食事も接客も文化も、僕はすっかり日本カラーに染まっているのだ。
だから、やっぱりそこに住む日本人には優しく、寛容で、開放的な態度を取って欲しいと期待してしまう。百年も二百年も前の鎖国の続きなど、しなくても大丈夫なのだ。きっと。

《都会なんて、世界中どこでも同じじゃないのか》

トロントの街角

《ここは結構見応えがあった》

トロントの教会

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カナダ旅行記 5日目 ② 〜新旧の赤レンガ地区〜

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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