カナダ旅行記 5日目 ② 〜新旧の赤レンガ地区〜

《バックナンバー》
カナダ旅行記 1日目 〜行きはよいよい〜
カナダ旅行記 2日目 ① 〜真夜中の覚醒〜
カナダ旅行記 2日目 ② 〜凍った街と僕ら〜
カナダ旅行記 2日目 ③ 〜ベジタリアン〜
カナダ旅行記 2日目 ④ 〜地下の巨大都市〜
カナダ旅行記 2日目 ⑤ 〜訓練前の本番〜
カナダ旅行記 3日目 ① 〜洗濯と郷愁〜
カナダ旅行記 3日目 ② 〜会話の動機〜
カナダ旅行記 3日目 ③ 〜野菜のパスタ〜
カナダ旅行記 4日目 ① 〜朝の思考〜
カナダ旅行記 4日目 ② 〜蟻の巣〜
カナダ旅行記 4日目 ③ 〜セル瓶〜
カナダ旅行記 4日目 ④ 〜明かされぬ語り〜
カナダ旅行記 5日目 ① 〜白黒つけない〜

さて、今日のセント・ローレンス・マーケットのことを語るには、2日前に訪れた時とは全く様子が違っていたことを告白しなくちゃならない。
市場の中は人で溢れかえり、外にも臨時の店がたくさん出ていた。
きっと今日が土曜日だということ、目の前で「ファーマーズマーケット」という、土曜日限定の農家が出店するマーケットが催されることもあるのだろう。ここはどうやら土曜日が一週間のうちで一番賑やかな日になるようだった。
品揃えも先日の比ではなく、これは結構な荷物になりそうだと判断した僕たちは、先に次の予定をこなしてから戻ってくることに決めた。

そこからさらに15分程歩いたところに、昔ながらの赤レンガの建物が立ち並ぶ「ディスティラリー地区」というエリアが現れる。
かなり唐突に。横浜の赤レンガ倉庫、に行ったことはないのだが、そのトロント版と言っていいそうだ。

当たり前のことだが、日本には僕の知らないことがそれこそゴマンとある。
むしろ、僕は日本のごく一部だけを切り取って、上手く消費して日本で生きてきたのだ。にも関わらず、海外にいるとあたかも僕が日本代表で、日本のことならなんでも知っていて、日本の国民性を完全に理解していることを求められるように感じる場面が少なくない。
自分の勉強不足を恥じ、悔やむべき瞬間もなくはない。
いや、どちらかというとこれまで僕は自国への意識というところでかなり怠慢を極めて来てしまったと思うし、他の国の人と比較しても、うまく自国のことを言葉にして断言できないことがあるのだ。残念ながら。

しかしながら、これは言い訳として聞いていただければと思うのだが、日本という国は控えめに見てもかなり多くの文化を内包した国であるし、実に多様な人々が存在し、どうにもこうにも一般化した表現に集約できないことだってあるのだ。
僕は「僕」という一個人以上の存在にはなりえないし、相手にも「日本国」ではなく「僕」として話していただきたいのだ。できればという話だけれど。

話を戻そう。この赤レンガのディスティラリー地区は、建物こそ歴史ある風格を残しているものの、観光地として名を馳せたのは結構最近みたいだった。
赤レンガなのは何も建物だけではなく、地面から壁から何まで全て赤レンガが敷き詰められているのだ。
足元のレンガが壁と全く同じつくりをしているため、じっと足元を見ているとまるで自分が壁にまっすぐに立っているかのような錯覚に陥る。

朝が早い(とは言ってももう10時を回っていたのだが)からか、人気(ひとけ)は少なかった。
細長い路地に残されている、使い古された機械がオブジェとなって客を楽しませている。
伸びた草が帽子のような格好になっている花壇は、誰かがひっそりと息を潜めているように見える。
この地区の不思議な空気感は、きっと数えきれないほどの動かぬキャストたちが演出を支えているからだろう。
ふと青空を見上げた瞬間に、小さな機械工が屋根に座っているように見えた。いつの間にか空は晴れ渡っていた。

遠くにガラス張りのオフィスビルが重なって見える。この地区が歴史をそのままに保存しようとしている一方で、時は確実に、しかも結構なスピードで進んでいる。

運の悪いことに、僕らの行った時間は殆どの店がまだ営業していなかった。
10年ほど前、古い歴史地区を保存して新しい価値を産もうと決意した数人の手によって、住民や観光客がここで心やすらぐ時間を過ごすためのカフェやパブ、人々がここでクリエイティブな活動を行うためのお菓子メーカーや雑貨店なんかが招致された。というのは、僕が集めた付け焼き刃の観光者向け情報だ。

おかげで、いつもよりも閑散とした地区からは、古き良き時代の栄光を誇る姿と、時代に取り残されないように新しいものの風を取り入れる努力の影との2つの人格が絶妙に垣間見えた。

《どこかにタイムスリップできちゃいそうだ》

トロント

《スパイダーマンになった気分だった》

トロント

《どこかしら日本的な感じがしないか?》

トロント

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カナダ旅行記 5日目 ③ 〜異国のたべもの〜

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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