カナダ旅行記 7日目 ① 〜朝の胃袋〜

《バックナンバー》
カナダ旅行記 1日目 〜行きはよいよい〜

カナダ旅行記 6日目 ① 〜ベジタリアン〜
カナダ旅行記 6日目 ② 〜凍える朝〜
カナダ旅行記 6日目 ③ 〜珈琲の救済〜
カナダ旅行記 6日目 ④ 〜世界一の滝〜

ひどい悪夢だった。まだ吐き気が続いている。たっぷり10時間かそこら眠り続けた体は、そこらじゅうがパキパキと音を立てた。部屋がひどく乾いている。轟々と鳴り響く音は、滝の音だろうか、それとも効きすぎる暖房器具だろうか。
部屋から滝を眺めたり、調べ物をしたり、書き物をしたり。僕たちは銘々に静かな時間を過ごした。時計が10時を指す少し前に、ホテルに隣接するアメリカンレストランに向かった。

幸運なことに、僕たちのホテルには朝食券が含まれていた。ネットでのレビューが散々だったのでかなり心配していたが(ちゃっかりと模擬体験はしておいた僕である)、店内は小奇麗で雰囲気もよく、心配は杞憂に終わりそうだった。

店員に券を渡すと、もう既に決まっているらしいブレックファストメニューを出してくれた。熱いコーヒー、フレッシュなオレンジジュース、焦げたトースト、縮れたベーコン、塩辛い炒り玉子、真っ黒なソーセージ。
僕は唐突に今朝の夢を思い出し、再びひどい吐き気を覚えた。そんな風に見えたのは僕の色眼鏡を通したからで、同行した2人にとっては満足の行く朝食だったらしい。あと2日間もこの朝食が目の前に出されるのかと思うだけで正直ゾッとした。これが、僕が言うところの「僕の不便性」たるところだ。
コーヒーとパンを半分とオレンジジュース2杯(気の毒に思った妹が恵んでくれた)を胃に何とか収めたことで、僕は免罪符をもらうことにした。

寝巻きにオーバーというひどい格好だったが、僕たちはそのまますぐ向かいにある土産物店に立ち寄った。そこは日本人の日本人による日本人のための土産物店とも言えるところで、あらゆるところに日本語が表記され、日本語スタッフまでいた。
北半球の裏側にあるカナダに日本がここまで侵食していることに、多少の気まずさと安心感を同時に覚えた。

そのままホテルに戻り、熱いシャワーを浴びることにする。熱い湯がジャージャーと出るというだけで、僕の中で風呂の合格ラインは超える。シャワーを浴びると随分と気分がよくなった。僕はきっと身体が冷えきっていたのだろう。

わがままを言って今日はホテルで過ごさせてもらうことにした。引きこもりがちな僕が奇跡的なまでに毎日歩き回っている。そろそろ限界が来ているはずだった。
2人は映画を見に出かけた。部屋には僕一人になった。しばらく書き物をし、少しだけネットサーフィンをした。
見知った友人たちの近況が、SNSで流れている。すっかりご無沙汰しているが、最近の僕はもうこういうのに辟易してしまっているのだ。
ここに投稿するためだけに写真を吟味し、文章を考えるのがただただとてつもなく個人的に嫌になってしまったのだ。

僕はPCを離れ、窓の外を見た。朝よりも滝がクリアに見え、またしても虹がかかっている。
あれほど感動した滝も、なんだか見慣れてしまった。
こんなことを言っては罰当たりかもしれない。それとも僕はこの壮大な自然の素晴らしさを、絶え間なく肌で感じ続けることができるほど器の大きい人間ではないのだ。
僕は冷たい窓に手をつき、滝を眺めた。僕は空っぽになった。

何も考えず、目だけが水の流れを追う。上手く空っぽになることができると、時間は一瞬で過ぎ去ってゆく。
空っぽの僕に思考はない。思考がないということは、ここに書くこともなくなってしまうということだ。

代わりと言ってはなんだが、滝の歴史を記しておこうと思う。
続きは次の投稿で。

《ホテルから見えた、滝と日の出》

日の出

《隣接するレストラン。西部劇を彷彿とさせる》

ウェスタンなレストラン

《例の朝食》

アメリカンブレックファースト

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カナダ旅行記 7日目 ② 〜滝にまつわるものがたり〜

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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