カナダ旅行記 8日目 ③ 〜前哨戦〜

《バックナンバー》
カナダ旅行記 1日目 〜行きはよいよい〜

カナダ旅行記 8日目 ① 〜Xデーの朝〜
カナダ旅行記 8日目 ② 〜氷の世界〜

レインボーブリッジ近くのバス停で降車し、アメリカ滝のあたりまで歩いて行った。
ホテルから見た時はアメリカ滝はほとんど凍って流れていないように見えたが、近くで見てみると、決壊したダムみたいに堰を切って次から次に水を送り出していた。あんなにも勢いのある滝が流れ落ちているのに、その後の川の流れは穏やかだった。
ナイアガラの川は、上からは到底想像もできないほど深く、柔らかく、一定なのだ。

昼食を摂るために、僕たちはガイドブックに載っていた店を探した。「秘密の花園」と訳されるそのレストランの外観は、残念ながら枯れ木のような佇まいだった。
それでも辛うじて外に飾ってあるメニューに目を通し、僕らは店の前に立った。そして、さびれた店がきちんと閉店していることを確認したのだった。

情報が大いに味方してくれるこの時代、僕たちが決して忘れてはいけないこと(少なくとも僕がそう信じること)がある。「検索」は万能ではないし、「調査に基づいた計画」は実現され得ないこともある。
そこにあるのはあくまで道標であって、完成されたゴールにはならない。ますます簡単に「知る」事ができる今だからこそ、きっとあえて意識しなければならないのだ。

しかたがないので近くの繁華街らしきところを歩くことにする。
とは言ってもほとんどの店が閉まっており、ありきたりなチェーン店が立ち並ぶ程度だ。次の予定が迫っていたため足早で右折すると、突然ハリウッド映画に出てくるような光景が僕の目に飛び込んできた。
フランケンのお化け屋敷、大きな観覧車、色とりどりのお菓子屋、バーガーショップ、アイスクリームスタンド。シーズンではないために幾つかは閉まっていたが、それでもそこはうらぶれたユニバーサルスタジオのような佇まいで僕らを興奮させた。

ジェラシックパークのBGMに乗りながら(僕の頭の中だけで流れていたBGMだ)、一軒のファミリーレストランに的を絞った。
中は涙が出るくらい閑散としていたが、しばらく待っていると厨房からウエイトレス兼コックだと思われるマダムが登場した。思えばここに来て、ファストフードでなくナイフとフォークを使う「ザ・アメリカ〜ン」な昼食を摂るのは初めてかもしれない。

僕はやたらとドレッシングのかかったサラダと、塩を惜しげも無く贅沢に使用した具だくさんスープを取った。
妹は山盛りのフレンチフライとボリュームの有るハンバーガー、伯母は同じく山盛りのフレンチフライと大きなチキンラップのプレートを注文した。
ここでは山盛りのフレンチフライはいうところの「お新香」のようなものなのだと思う。
恐ろしく腹の膨れる箸休めであり、北米の象徴的郷土食なのだ。ちなみに欧州では(というかスウェーデンでは)、マッシュポテトや粉ふきいもがそうであったから、じゃがいもというのは万能食材であることを誰もが認めているわけだ。

僕は妹のハンバーガーのパンを片面全て失敬し、サラダとスープを中和させた。僕らはここに来て「シェア」の大切さを学んだ。ここでは僕らは一人前ではない。加えて、女子という生き物は少しずつ色んなものを食べたがる。これは総じてそう言い切ってしまっても支障がないと思う。

腹を満たした僕らは、次に控える本日のメインイベントへ向かった。
例のうらぶれユニバーサルスタジオの程近くにある高級ホテルのロビーに、ぽつりぽつりと日本人が集まりだす。
突如、80年代からタイムスリップしてきたような、くたびれた日本人のサラリーマンが姿を見せた。もっとも、僕が生まれたのは90年だからあくまでもイメージには違いないのだが。彼が僕の名前を読み上げる。続いて、数人の日本人が呼ばれる。

僕らが楽しみにしているツアー『ナイアガラ・オン・ザ・レイク&ワイナリー「カナダで最も美しい街とワイン・ルートを訪ねる」』が始まった。
2日前結構苦労して見つけ出しただけに、僕らの気分も幾分高揚していた。
なにより日本語ツアーだと僕は躍起になってあまり得意でない英語を聞き取らなくてもいいし、伯母も妹も大いに楽しめるのがいい。
車内には陽気なオジサンが「いらっしゃ〜い」と迎え入れてくれ、僕らとともに2人の若く美しい女性が乗り込み(決して僕の主観ではなく、客観的に見て美しい女性たちだった)、そしてガイドの萩なんとかさんを交えて車は出発した。

《高度成長時代の藻屑みたいだった》

うらぶれたテーマパーク

《すごい量だった》

北米の代表的食事

続きを読む
カナダ旅行記 8日目 ④ 〜ワインの飲み方〜

The following two tabs change content below.
ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

新刊発売中!

できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍のみ
販売価格:450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。