伊勢旅行記 第2章③ 〜お風呂三昧〜

はじめから見る
伊勢旅行記 〜夏の終わりの贅沢な旅のお話〜【序章①】
伊勢旅行記 〜夏の終わりの贅沢な旅のお話〜【序章②】
伊勢旅行記 第1章① 〜日常からの旅立ち〜
伊勢旅行記 第1章② 〜伊勢神宮 外宮〜
伊勢旅行記 第2章① 〜新しい、いにしえの宿〜
伊勢旅行記 第2章② 〜消え行く緊張と現実感〜

それから夕食までの間、館内のお風呂を巡ることにする。
部屋の露天風呂の他にも、2つの大浴場と、4つの貸切露天風呂。考えただけでくらくらとのぼせてしまいそうだった。父は先に大浴場に行き、女3人で部屋を出る。宿に着いた時に、妹と子どもみたいに探検をし、その時に調達しておいた浴衣を着て。

貸切風呂というのは、空いている時に誰でも入ることのできる、小さなお風呂だった。4つがそれぞれに個性を持っていて、確か名前は「青竹の湯」「伊勢の湯」「夢想の湯」「白絹の湯」だったか。わたしはあまり泉質だとかそういう細かいことを気にしないたちなので、そういうことはあとの二人に任せておいた。

わたしたちが入ったのは、「伊勢の湯」と「白絹の湯」。前者は檜のまるい湯船が特徴の、正真正銘の天然温泉。後者は、大理石の湯船に白く濁った湯が特徴の、シルキー風呂。白絹の湯は、覗いた瞬間にピンク色の幻想的な雰囲気が漂い、他の3つの風呂とは雰囲気が違っていた。
行ったこともないくせに、「ラブホテルってこんな感じなのかしら」などと、無粋なことがちらりと頭をかすめる。どこにいたって、何をしていたって、現実を生きる思考ってやつはつきまとう。ここでこうしているのだって、紛れも無い「現実」のうちの一場面に過ぎないのだ、と言われてしまえば、それまでなのだけれど。

2つの風呂を巡ると、思いのほか疲れてしまった。
もともと、長風呂はあまり好きではない。あとの2つの貸切風呂はひとまず置いておいて、大浴場を覗いてみる。檜のお風呂がたくさんある。檜はいい。香りがいい。日本人の肌に合う木だという感じがする。小さい頃から敏感肌で、定期的に皮膚科に通っているわたしは、体に入れるものや肌に触れるものには特に注意深くなる。近頃アトピーがまたひどくなってきていたから、右手は湯に浸けないでおいたけれど、ここの温泉は体には悪くない気がした。

時間の都合もあったし、あとはごはんの後にしようということになり、部屋に戻る。
暑がりの妹と父に合わせた温度設定の部屋は、ぽかぽかと温まったわたしの体温を急速に奪っていった。けれど、今日ばかりは何の不満もなかった。何度だって温まれるのだから。残ったハイボールをちびちびとすすっていると、夕食の時間になった。

普段、どんなに遅くとも19時には夕食が始まるような生活を送っているせいか、それとも風呂上がりだからか、はたまたあのハイボールの魔法か、前菜が出てくる頃にはすでに半分眠ったような状態で臨むことになった。

お風呂の写真がないので、伊久の公式サイトからどうぞ。
そもそも、写真だってほとんど妹任せだったのだけれど。

続く↓
伊勢旅行記 第3章 〜本当に素材を活かす料理とは〜

The following two tabs change content below.
ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

新刊発売中!

できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍のみ
販売価格:450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。