伊勢旅行記 第4章② 〜言葉のお守り。ひとりの時間〜

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すぐにでも眠ってしまいたい気分だったけれど、大浴場は男女入れ替え制だということに思い至る。
午前4時になると、今の風呂はもう体験できなくなる。こういうところは、欲張りな家族によく似ている。もう体も髪も洗っている。少し覗いてみようというくらいの気持ちで、大浴場に向かう。

「社の湯」と書かれた女湯は、当然のことながら先ほど見たそれと変わらず、檜の湯船がいくつもある風呂だった。もうお風呂は十分だ。そう思うくらい、今日は何度も裸になり、体を濡らし、体を拭いた。
「体を清潔にする」
そういう風呂のそもそもの目的をふと忘れてしまうくらい、完全に娯楽と化した温泉の連続に、少しめまいがした。

とにもかくにも、これで安心して眠ることができる。
相変わらず寒いほどに冷房の効いた部屋で、すやすやと眠る妹の隣に陣取る。

わたしとこの子は、いいコンビになれているだろうか。少なくとも、わたしは彼女を大切に思っている。
彼女にとってのわたしがどうであれ、ひとまずはそれでいいかと思う。
人は皆、最終的には自分自身をひとり抱えて生きていかなければならないのだ。時に寄りかかって、支えあって、それでも自分の軸は、自分でしっかりと立てていなくちゃ。
わたし自身も、そろそろそれができる時期に差し掛かっているはずだと、なんとなく感じる。思いあがりだろうか?

枕元の読書灯を付けて、読みかけの本の頁をめくる。
ああ、また出逢ってしまった。わたしを支えてゆく、言葉のお守り。

「外にいる時の私はいつも息をつめているようなところがあった。周囲のスピードについていけなかったが、何とか合わせていたのだろう。その疲れのようなものが溜まっていた。ひとりになりたかったのだ」『サウスポイント/よしもとばなな』

どうしてこの人は。
彼女の本を読む度に、いつも思う。
どうしてこの人には、わかってしまうんだろう。見えているんだろう。
こんな世界が。自分の感じ方が、生き方が、例え頑張っても変えられなかったとしても、許される気がする。一度そう思ってしまうと、もう変える気なんてどこかに吹き飛んでしまう。

そうして、幸せな気持ちのまま、まどろみの世界に身を沈める。

続く↓
伊勢旅行記 第5章 〜早起きと伊勢のかたぱん〜

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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