伊勢旅行記 第6章② 〜神様へのお願いごと〜
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お賽銭を入れて、二礼二拍一礼。
手を合わせて目を閉じた時、わたしは何を考えたらいいのか少し悩む。
ここ数年、神様にお願いごとをすることはなくなった。わたしはもう十分すぎるくらいに与えられているし、仮にわたしが満たされない思いをしたり、辛い思いをしたりすることに関しては、もうそれは神様ではなく自分で何とかするしかないのだ、と知っていた。
自分ではどうしようもなくなった時も、側で支えてくれる人たちと出会わせてくれている。これ以上、忙しい神様に願い事なんてできっこない。
「ありがとうございます」
ひとまずそう言うことにしている。けれど、何だかそれだけでは間が持たない。
だからわたしは、「わたし、頑張りますね!」だとか、「暑いですが、ご自愛ください! 差し出がましいようですが!」だとか、「できたらでいいので、妹に白馬の王子様を!」だとか申し上げたりする。
神様は、そんな小娘のひとりごとを、どんな風に聞いているのだろう。これはもう、自己満足の領域でしかない。起きている間は四六時中頭を動かして考え事をしてしまうわたしは、静かに心を鎮めて、無になって心を神様に預けるなどということが、できない。
苦手なこと、人との会話。目や耳で処理する情報が多すぎる場所。そして瞑想。
いつだって自分の頭とぺちゃくちゃおしゃべりしているわたしは、外から見るほどに落ち着いた人間ではない。
目に見える物質にあまり興味が持てないわたしは、お守りを買うかどうか悩んでいた。
わたしは、これと決めた本にはためらいなくお金を使う。けれど、服や小物やそういうものについては、むしろたくさんあることでストレスさえ覚える。
お守りは、たぶん何かの「しるし」なのだと思う。それは、物質という形をとった、精神世界の存在なのだろう。
そういうわけで、わたしはお守りを買うことにした。働き出してから健康面で災難続きの自分に、健康を願うお守り。わたしにしては珍しく、ピンク色を選んだ。桜色のような淡いピンクは、実は好きなのだ。
こうしてあれこれ理屈を並べ立ててみたものの、結局のところ、「日本で一番えらい神様」のいる神社でお守りを買わないなんて、何だか損だ、という心理が働いただけのようにも思う。わたしだって、欲だらけの人間なのだ。人間として、本能のままに素直に生きているだけなのだ。
普通に立っている木でさえ、あまりの年月の重みに息を呑む。
朝の五十鈴川からの景色
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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