伊勢旅行記 第8章 〜まどろみと二度目の朝。朝食〜

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宿に戻ると、時刻はすでに7時を回っていたように思う。いかに時間に縛られない旅だとはいえ、やはり現代に生きる私たちは、少なくとも短針は気にしていなくてはならない。

「朝ごはん、どうする?」
「何時でも。特にお腹は空いてない」
「お母さんの胃は、いつでもReadyよ〜」
「眠い」
朝食の時間は、朝の7時から9時半の間だった。

わたしたちは、一旦それぞれのスケジュールを組み直すことに決め、8時半を目処に再度集合することを約束し、解散した。
妹は早くも、すやすやと寝息を立て始める。
父と母は、お風呂に向かった。

わたしは、正直言うと、お風呂に入ったほうがいいような気がしていた。貸切露天風呂をまだ2つ残していたし、もうひとつの大浴場だって行っていなかった。けれど、あまりにも眠かった。お風呂に入ったりしたら沈んでしまうくらいに。

チェックアウトまで、まだ4時間もある。ここで「しなければならない」ことなんてない。自分の体力と、まだまだこれから始まる一日と、ちらりと頭をかすめた明日の仕事のことを全部加味して、ひとまず眠ることにする。

……ちゃん、えちゃん、……ねえちゃん……
「おねえちゃん」
はっと気がつくと、部屋には全員が揃っていた。妹は、もうとっくに起きだして、わたしを呼び続けていたらしい。すっかり眠り込んでしまった。約束の時間を過ぎてしまっている。

「ごめん、全然気が付かなかった」
わたしは、待たされるのは嫌いではないけれど、人を待たせるのは大嫌いなのだ。けれど、家族だから。そういうのを許してくれる、そして自分もそこまで負い目を感じないで済む関係が、家族だった。

本日、二度目の朝を迎える。もう今日がいつなのか、わからない。昨日の今頃は、出勤する支度をしていたなんて。楽しいことはあっという間に終わるというけれど、ゆっくりと流れるしあわせな時間もあるのだ。

ぼんやりとした頭を抱えながら、朝食の席に向かう。いつも朝食は食べないか、食べても果物くらいなものなのだけれど、せっかく来たからにはお腹いっぱい美味しいご飯を楽しみたい。

「和朝食には、伊勢の郷土料理がたくさん出ますよ」
昨夜、夕食の席で仲居さんが教えてくれた。

早起きしたのだからそろそろ胃が起きてくれてもいい頃なのだが、あいにくもう一度寝起きの状態に戻ってしまっていた。
それでも、色とりどりの小さな小鉢にずらりと並んだ料理を見ていると、俄然食欲が湧いてくる。

炊きたての白米の匂いが苦手という、日本人にあるまじき性質を持つわたしだけれど、おかゆが選べるというのも嬉しかった。ちなみにおかゆは、大好きだ。
ほんのり甘いだし巻き、揚げなすの田楽、鯖のみりん焼き、あおさ入りのかまぼこ、小アジの南蛮漬け、サメのタレ(エイヒレみたいなやつ)、牛肉と糸こんの時雨煮、味噌汁に漬物、サラダ。これに、海苔と納豆と生卵が好きなだけもらえる。あと、さらに嬉しいことに、小さな豆乳鍋までついていた。

いわゆる「ご飯のお供」というやつはわたしにはからすぎて、おかゆだけでもばくばく食べてしまう。それでも、相当食べた。
お腹がいっぱいになった。苦手なおかずは、まだまだ白米のお供を必要としている家族にあげる。

好き嫌いを直さなくては、と思うのだけれど、肌が荒れるのだ、腹をこわすのだ、嫌いなのだ、仕方ないじゃないか! と自分で自分をなぐさめる。誰にも責められていやしないのに。
それでも、別に健康であればそれでいいじゃないかと思うのだ。わたしは、心身ともに、元気です。
あと、デザートとして出た、器に大盛りのアロエヨーグルトは絶品で、美味しく完食いたしました。

朝からすごい品数。
目がまわるかと思った。
朝食1

豆乳鍋。これはすごく好みだった。
朝食2

続く↓
伊勢旅行記 第9章 〜旅の中で、旅に出るということ〜

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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