伊勢旅行記 終章③ 〜実際的なおかげ横丁の歩き方〜

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伊勢旅行記 〜夏の終わりの贅沢な旅のお話〜【序章①】
伊勢旅行記 〜夏の終わりの贅沢な旅のお話〜【序章②】
伊勢旅行記 第1章① 〜日常からの旅立ち〜
伊勢旅行記 第1章② 〜伊勢神宮 外宮〜
伊勢旅行記 第2章① 〜新しい、いにしえの宿〜
伊勢旅行記 第2章② 〜消え行く緊張と現実感〜
伊勢旅行記 第2章③ 〜お風呂三昧〜
伊勢旅行記 第3章 〜本当に素材を活かす料理とは〜
伊勢旅行記 第4章① 〜おもてなしと欲。夜鳴きそば〜
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伊勢旅行記 第5章 〜早起きと伊勢のかたぱん〜
伊勢旅行記 第6章① 〜伊勢神宮の早朝参り〜
伊勢旅行記 第6章② 〜神様へのお願いごと〜
伊勢旅行記 第7章 〜作りたての赤福とその由来〜
伊勢旅行記 第8章 〜まどろみと二度目の朝。朝食〜
伊勢旅行記 第9章 〜旅の中で、旅に出るということ〜
伊勢旅行記 終章① 〜お伊勢さんには人が集まる。時の流れのこと〜
伊勢旅行記 終章② 〜家族それぞれの視点から見たおかげ横丁〜

昼食後は、父と母、妹とわたしの二班に分かれて行動を開始した。
いい加減、お土産を決めなければ。ここでは「おみやげを買う」ということが主なミッションとなる。腹も満たされている。物欲はない。人が多い。そんな場所でわたしができることが、他にあるだろうか?

結局、内宮のほど近くのよくある土産物店でパッケージ入りのせんべい菓子を購入する。実を言うと、こういう場所で小さく刻まれた試食用のお菓子を手当たり次第口に放り込んでいくことが、密かな楽しみだったりする。

スマートフォンに、ビールが2杯写り込んだご機嫌な写真が送られてくる。
妹とわたしは半ば呆れ気味で、両親がそれなりに楽しく2人の時間を過ごしていることを喜ぶ。(あとになってわかったことだけれど、この時は父が2杯のビールを飲み、母はしっかりと帰りに運転してくれた。こういうところが、母は結構頼りになる。もちろん、行きにひとりで運転してくれた父には、何の不満も感じない)

おはらい町通りの、さほど目立たない外観の真珠店に、妹が興味を惹かれた。

彼女のショッピングに付き合わされて嫌がる彼氏が多いと聞くけれど、わたしは愛する妹の荷物を持ちながら、妹がうきうきと真珠のピアスを耳にあてがう様子を見ると、とても嬉しい気持ちになる。
それに、手持ち無沙汰な買い物タイムが、これでうまく消化されたわけだ。その老舗の真珠店は、良質な真珠が悪くない値段で買えた。
妹は、背伸びし過ぎることなく、身の丈にあった小さな真珠のピアスを買った。
その間も、2人いる店員さんのうちのひとりは、わたしの相手をしてくれた。

わたしとしては、目の前にある「豚に真珠」というストラップに興味がそそられていたのと、妹の姿を見守るだけですでに精いっぱいだったのだけれど。それでも、一旦スイッチをONにしてしまえば、わたしはこういう類のコミュニケーションを驚くほど上手にこなす。無難な世間話を、とびきり愛想良く。とてつもなく電池の減りが早い、高性能なスマートフォンみたいな働きをする。

もう一度両親と合流し、家のための土産物を買ったり、ジュースを飲んだり、元祖きゅうりの一本漬けを食べたり、松阪牛の握りを食べたり(もちろんわたし以外)して、伊勢ともお別れだ。

よく食べ、よく歩き、たくさん吸い込んだ。こうして文章にしてみて初めて、自分が伊勢という土地で、この3人と短い旅をして、体験できたことの深さや多さがわかる。いつでも行けるわけではないからこそ、大切な時間。

松阪牛握り(一貫500円!!)
松阪牛握り

元祖きゅうりの一本漬け。うまい。
元祖きゅうりの一本漬け

続く↓
伊勢旅行記 あとがき

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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